「―――というか、本当にいいんでしょうか……一級小隊総出で楼蘭でバカンスなんて…」
「たまには全員で休暇でもしてこいという、ララスンの好意だよ。まぁ、当のララスンは本部で居残りだが…」
 そして曰く、現地で絶対に面倒事があるから、という部分をトリアには伏せておくシーアさん。とりあえずチューリップ君をガン見しておくことは紳士の嗜みである。
 さて、ルフトバッフェの中核がなぜ楼蘭にいるのか。それは「一度は向こうさんにも顔出しとかんといかんだろ」というカラヤの思いつきと、「楼蘭の海は綺 麗らしいですよ」という鶯妃の発言によって毎度の如く流れのままに、赤・白・黒の小隊+数名は楼蘭にバカンスに来ていたのであった。保護者兼責任者は司令 代行の鶯妃様とブロッケン議長とゆー豪華すぎる面子であるが、どうせ楼蘭のような極東ではカラヤの蛮勇も薄いので、挨拶するなら元首と現地人が適当、とゆーことになったそーな。
「まぁ、我々の穴は他の中隊が埋めてくれるから問題ないさ」
 特に飛行型が多いグレートウォールには、暇を持て余していた居候殿に犬猿の二人率いる特攻隊と第8中隊、そして自分で言っといて何だが正直ついていきたかった総司令が指揮を執っているとかで。この面子を前にするGには少し同情を禁じ得ない。

 …。

 そしてララスンの予想した面倒事は見事に的中し。
 ドレスが接触したどっかのジェスチャー好きな王女様。 
「さららー!俺だー!結婚してくr」と修行の一貫なのか副業しないと神社の経営やばいのか、海の家をやってたさらら追っかけて現れる楼蘭侍女総大将。
「よし、貴様ら。あの特定メード掻っ攫って、中に誰もいませんよ、してこい」とゆーハゲ総統の命令通り上陸するテンション低い黒旗面子。特にバージュは黒 マントが蒸してもう邪気眼演技どころではなくなっている。なにこの暑さに湿気、砂漠より最悪なんですけど。…ただし骸骨男だけヤる気満々で鬱陶しい。



「暑い…蒸してベトベトで暑いってーか太陽がギンギラ銀蠅で暑い……つめたぁ~いミントアイスが食べたいよぅ…」
 楼蘭の夏に耐えられなくなったバージュはもはやキャラ作りどころではなくなっていたが、周囲にそれを気にする者はいない。ハゲ総統の私情で上陸させられ た黒旗ご一行は、みんな似たり寄ったりでだれていたのだ。ただし、骸骨男とジブリババアを除けば。
 とりあえず、この暑さでは仕事にならないので夜まで待機することにして、済し崩しのままに海水浴ムードとなる黒旗面子。だって目の前に海があって、水着がどうしてか手元にあるんだもの。涼まなきゃやってられない。
 ただひとつの懸念は変態骸骨♂であったのだが。
「―――――…あの……すごく…冷静?…ですね…」
「んー? だってボク、水着興味ないモン。生足なんて眼中ないし。そこにニーソか白タイツ履いてくれるなら、ボクも本気出さざるを得ないけど。だからボクはいま、唯一白タイツ履いてるケイトちゅわんをガン見しているのデスぅ」
「…………」
 そうして物凄く複雑な心境になるケイトさんの背後で、阿鼻叫喚の悲鳴と嘔吐臭が漂う。
 ババヤガーさんが本気を出したのだ。本人はまだまだいけると頑な。ポーズなんて決めちゃったりして。
「……アホくさ…」
 ロナさん、水着を着たものの海の潮臭さに涙目になりながらの一言。
 黒旗面子のテンションは更に下がる一方であった――――…。



 
「さららー! 俺だー! 子作りしようz」
 次瞬、海の家とゆー雑多な食堂の店主にルパンダイブを決めた楼蘭の男は、海の彼方へと消えていった。見事な場外ホームラン、箒で人間がアソコまで飛ぶも のなのかと感心しながら、粉っぽい焼きそばをチュルチュルする鶯妃様。問題はそこではない気がするけれど、ウチでもよくあることなので今更突っ込むことで はないかと改める。
「貴方の隆光です、麗しのお嬢さん。よろしければ、その花弁の唇からお名前をお聞かせ願えないでしょうか」
「えー…と…」
 別の所では、妙な三人組にナンパされているトリアたちがいた。が、そのうちの一人は海から生き物のように沸き上がった波に巻き込まれて即行海岸から消え失せていたが。「……翆蓮、恐ろしい奴…」と連れの黒髪さんが呟いていた気がする。
 更に目を泳がせれば、別の団体さんのうち、骸骨っぽい人と秘密結社の戦闘員っぽい人に担がれた女の子が、涙目になりながら海に放り込まれていたり。よく 分からないけど惨い光景に思える。どこかで見たことがある団体にも思えるけど、たぶん気のせいだろう。きっと。
「………いや、でも鶯妃様」
「ん、どうしたアム」
「海って……切ないです…」
 隣で溶けかけたかき氷をシャクシャクしながら、アムはまるで一緒に刻を見た女性を誤って刺してしまったような辛苦の面持ちで語った。
「だって、みんな、水着で――――誰も、パンツ履いてないんですよ……」
「………………………そう、か…」
 嘆息する彼女に、一体パンツとあの洋物の水着らの違いは何なのか、まったく理解を得ないまま曖昧に返すしかなく。ちなみに楼蘭の女性は殆どパンツを履いてない方が大多数なのだが――――とはとても言えない鶯妃様なのであった。



 
「私しゃ〝めーど〟さんってのはよー分からんけど、めでたいことに変わりはない。ホルンさん、ウチの倅をこれからもよろしくお願い致します」
「はーい。お母様もよろしくしちゃってくださーいなっ」
 と、結婚式以来ご無沙汰だった若松幸示の母親への挨拶も終わったというか、そもそもルフトバッフェご一行の宿が若松中佐の実家だったりするのだが。二十人近く押し寄せてきたのでさすがに雑魚寝必須であるが、それはそれ、楼蘭の異文化建築をそれなりに楽しんでいる一行であった。このどこからでも侵入できそ うな不用心さも、慣れてみれば海風と風鈴というらしい夏の風物と合わせて、心地良い開放感があると思う。
「まぁウチはもともと民宿をやってるからな。慣れたモンだよ」とは若松曰く。ついでに嫁の楼蘭の正しき祭り姿にかなり御満悦のご様子。背後のパハラッチにも気付かないくらい。あの二人、ラブラブすぎる。ウラヤマシイ。
 そして酒が入ったか、全裸になって叫んでるセリアさんは誰か止めた方が良いと思う。ルテーガが一緒になっててかなり煩いんだけど。
「――――…というか誰も突っ込まないのかなぁ、何か明らかに一人増えてるんだけど。……うん…誰も聞いてないですね…」
 とため息をついて、一人線香花火に勤しむ白の部隊のエアー娘な私。まぁ無害っぽいし、あのアイアンハートで無関心のドレスが何気に気に入ってるみたいだ し、こっちに手を振ってくれてるし、ぜんぜん余裕だろう。何事も争いばかりでは解決しない。命の光を世界に見せなきゃならないときだってあるさー…「う う、みんな〝YUKATA〟で誰もパンツ履いてないなんてー!!」と、アンニュイしている私の背後で泣き叫ぶ同隊員アム。
「………はぁ」
 やっぱり私は視界に入ってないのかと、わざわざパンツを履いておいた意味が徒労とかしたことにため息をついたら、線香花火がボタリと地面に落ちていっ た。でも確かに、下着の線が見えるので着ない方が正しいのかもしれないなぁと思いながら、私は次の線香花火に挑戦するのだった。

―――――「で、準備はばっちりで?」 
 訊ねると、黒の部隊の戦闘員さんがビシッと親指を立てた。昔はなんか違う目的でこんな格好していたらしいが、今やよく分からないままにあのメットと不衛 生っぽいエプロンドレスが戦闘員のコスチュームになっている。たぶんV4師団とかゆー組織への対抗心だろう。それしか思いつかない。
「連中が使う屋敷は木造ですし、即木っ端微塵ですよ」
 早い話、寝静まったところを集中砲火しようという作戦である。まぁ黒旗御用達の密航ルートで戦車やら戦闘機やらを持ち込めなかったのだから、歩兵が仕える範囲での火力に頼るしかないのだろうけど。
「で、燃え盛った家から漏れてきたのはみんなで蜂の巣に……あとはメード任せ……何というか…」
 常套と云えば常套。外道と云えば外道。まぁこっちもお仕事なのだけど。
 不満そうなのは、驚くべき事にあの骸骨さんです。あの根暗さんがやる気がないのはいつものことだし、無視。私が言うのも何ですが。
「……それだと、ボクちんがあんまり楽しめそうにないんですけど。死体を苛めても面白くないしサ」
 ああ、変態なだけでした。どうしようもない。
「……さて」
 偵察によると、あの赤い隊長さんと地味な人、黒いお子様はベーエルデーの虎議長と一緒に外出しているらしいが。一番面倒そうなのがいないのはこちらとしても手間が省けるというものであるのだけれど。
「………そもそもこれ、本末転倒な作戦じゃないかな」
 だってあのハゲデブは「中に誰もいませんよ」してこいといったのに、火力で木っ端微塵にしてどうするんだ。
 でもメンドイから何も言わずに、私はツィー・ファウストをひょいと手に持ったのでした。






 翌朝、楼蘭の人らがゾロゾロとどっかで見たような奴らを連行していくのを見かけた。
 連行されている連中はみんな口々に「ニンジャぱねぇ」「もうニンジャは嫌ニダ」「犬怖い犬怖い」「白いオオカミの悪魔が」とか泣きべそかいて、そのニン ジャっぽい人らにしょっ引かれていく。汚いメード服を着てるけど、ほぼ全員普通の人間みたいだ――――――うーん、本物のニンジャって初めて見た。なんか格好いい。
「お。なぁなぁジュード。あの黒マントの銀髪、たしかエアレースん時にいた奴だジェ? 懲りないなークロマタ……じゃねーな? クロクロ? クロスケ?……まーいいや。昨日の夜ちょーと騒がしかったのはアイツらかぁ」
 と、寝起き直後のコニーが暢気に眺めながら言う。黒マント……アイツは確かメードだ。黒…なんたらとかゆーインチキ宗教団体?みたいな所?の。多分そうだった、と思う。
「そーいや昨日の夜中に、なんか地鳴りか獣の遠吠えみたいなのが響いていたような気がするなぁ……」
 というか、トイレに起きたのでそこはハッキリと覚えてる。コニーも右に同じだ。けどシーア隊長が「今日は何も心配しないで気楽にしていればいい。それこそ、大船に乗ったつもりでな」と言い残していたので、気にしないでそのまま寝てしまったのである。……ちなみに、別に慣れない国の夜の家が不気味だったと か、何か出そうだとかそういうんで、コニーと同伴したんじゃない。たまたま偶然どうしてか一緒のタイミングでトイレに起きただけなのだ。うん。
――――…でもとりあえず、髪はともかく、その、服を、どうにかして欲しい。目のやり場に、その、非常に、困る。し。日焼けとか、肌とか、その。
「お、ジュード。隊長発見したジェ」
 と指さすコニーに促されると、いつの間に帰ってきていたのか、見慣れぬ楼蘭服を着たシーア隊長の姿があった。……うぬ…可愛い…。コニーもあれだが楼蘭服め……布きれ一枚で……恐るべし。
 まぁ、それはともかくとして。隊長は何やら黒い服の男とお話中のようだった。少し距離があるが、耳を澄ませばどうにか聞き取れる。さっすがメード。いや俺はメールだけど。
「―――…しかし、これはまた随分と世話になったようだ。借りが出来てしまったかな、総大将殿?」
「カッ。めでたい祝いを兼ねて慰安に訪れた客人の手を煩わせちゃ、楼蘭の魂に傷がつくってもんだ。ま、侍女の何人かは逃がしちまったが」
「フッ、逃がしてしまった……か。〝九頭神〟……いや、〝葛神〟殿は、随分と喰えん人のようだ。君みたいな人は、嫌いではないよ」
「気が合うな、異国の。お前も随分面倒な奴のようだがァ…いい女には違いない。〝アレに打ち勝ってる〟ってだけでも相当な気骨持ちだろうよ。ウチの玉無し共に見習わせたいくらいだが…」
 何やら神妙な会話をしていた二人だが、クズカミとかいう男は言葉を切ったや否や、いきなり隊長の尻を撫でたっ…てうぇええええ?!!!
「残念だ。もう少し遅けりゃ、文句なしだったんだがな」
「フフ。これでも高く買われた尻のつもりだったのだがね。そうだな、もしかしたらあと数十年も経てば君好みに成るかもしれないよ」
「それこそ無理な話だ。俺ぁさらら一筋の男だからな―――」
 と、不敵に笑いながら―――――全速力の俺の蹴りを余裕で躱すクズカミって男。亜音速で奇襲したのに平然と避けるってことは、こいつもメールか。いやそんなことより何よりだ!
「てててテテテメェ!!! いい今いま今! し、シーアた、隊長の、し…しししし尻を!」
「触ったぞ」
 カカッと口元を歪めて。
「覚えておけ青臭い小便坊主。女の尻を撫でるのは、男児として当然の礼儀だ」
「んなわけあるかーッ!!!」
 怒りに翼を爆発させてもう一度殴りかかるが、またも空振り。何度やっても結果は同じで軽くいなされてしまう。鶯妃のねーちゃんみたいに凄くゆっくりなの に、こっちが動けば動くほどヒラヒラと逃げていく錯覚に意識が負けそうになる。それにこっちは空中戦までしてるってのに、これじゃ相手も浮いてるみたい ―――…
「って浮いてるじゃねーか!! 翼もないのにッ!!!」
「阿呆か。役小角って大昔の陰陽師だって空飛べたって教科書に載ってるだろうが。人間が浮いて歩くくらい、常識の範囲。だろう?」
「いやいやいや間違ってる。何かすっごく世間一般からのズレを感じるぞ!!」
「それと坊主。俺は女に撲たれるのは至極当然と受けとけるが、理由もなく弱い男児に殴られる趣味はねェ」

――――――「じゃ、あちしはOKなんだな!」

 と、声が届くよりも早く、コニーの蹴りが黒づくめの男を空の彼方へと吹き飛ばしていた。音を置き去りにしたコニーのラジカルなキックが巻き起こした風が ぶわりと彼女に続いて巻き起こる。―――――…とりあえず、その服でその行動は、その、非常に、困る。です。うん。
「……というか、さすがに死んだんじゃ…あれ」
「なんとなく蹴るべし!って啓示が下ったような気がしたんで、蹴ってみたいんだジェッ!」
 ビシッと親指を立てるコニー。でもこの場合、下向きにいっちまったんじゃないだろうか。あと、早く服を整えて下さい、火急に。お願いします。
「フフ、いやジュード君。あの〝大神(オオカミ)〟は無事だよ。それに彼なりのルールで受けてくれたんだから、もう許してやってくれ。昨晩の借りもあったしな」
「――――…隊長が、そう言うなら。……でも次やったら、絶対ぶっ倒してやんよ」
「そうか。なら、せめて私が全力を出させる程度には、ジュード君を鍛えないといけないな」
 何やら楽しそうに満面の笑顔を浮かべる隊長。可愛いけど、ちょっと怖い。でもやっぱり可愛い。
「……借りも……あった、ジェ?」
 そこでコニーが疑問符口調でぽつりと呟いた。ああ、と隊長が笑う。
「私のは高いからな。これで借りはチャラということさ」



――――そして、卑怯な奇襲をしようとしていた自分たちは、ものの見事に返り討ちに遭ったのだった。
 所謂、ミイラ取りがミイラになる、というあれである。
 深夜の闇に乗じて、海が一望できる野中の一軒家に対して放つはずだったありったけの砲火は、更なる闇によって次々と打ち砕かれた。自分たちより遙かに高 等に闇に紛れていたその一団は、二手に分散して攻撃する手筈だった黒旗の部隊を瞬時に制圧していったのである。
 黒旗の現構成員の殆どは、扇動された自主性のない民間人か軍人崩れであるが、それにしても呆気ないものだと、私は少し感心してしまったくらいだった。一 応の抵抗はしてみたようだけど、正体不明の一団が用いる奇妙な術と圧倒的な体術の前にどうしようもなく総崩れしていく様は、そう捉えるしかないくらい見事な敗戦色だったのだから。
 まぁ、別に連中がどうなったって私には関係ないけど。
 確かに一団は、随分人間離れした動きをしている。物音一つ立てず、獣のように早く、鳥のように宙を舞い、奇妙な技術で火器を相手に銃器を一切使うことなく、駆逐していく姿はどうみても人間のものじゃない。
 けど、それでもあれは人間だ。私たちメードからみれば、何のことはない。まったくの人間である。
 だから問題なのは、あの一団の中に一人紛れて、迅雷のように動いてる黒ずくめのメール。その速さは本当に雷電のそれといっていいほどで、次々と哀れな戦闘員たちを蹴散らしていく。正直、アレを私は相手にしたくない。
 とりあえずナイトさんと邪気眼が向かったみたいだけど、邪気眼は瞬殺されていた。ナイトさんはいまのメンバーの中でも一番強いけど、相手のメールも強ければ、周りが人間やめてる人間ばかりなので旗色が悪そうである。なんか「汚いなさすが忍者きたない」とか言ってる気がする。
――――まぁ、それも別にどーでもいいけど。
 そして自分たちの場合。
「…………」
 目の前の白髪の男一人だけが、私のいる部隊へと宛がわれていた。
 奇妙な集団もいない。ただそいつ一人だけ、何の前触れも音もなく、私たちと目標の家を挟む形で眼前に立ちはだかっていたのである。
 まるで風と共に現れたとしか喩えようがなく現れた男は、開口一番、こう言ってきた。
「カッ。人の恋路を邪魔する奴は――――ってあるが」
 そして、いまから悪名高きルフトバッフェをなぶり殺しにしようと昂揚していた戦闘員の一部は、その男に対して即座に発砲したのを覚えている。メードの何たるかもろくに教育されていない無知な彼らの、私の翼でも楽々防げる小銃程度の火力は、はたして目の前の男にまったく通用しなかったことも。

「お前ェら、馬と犬、どっちが好みだ?」
 
―――――かくして、自分たちの部隊も一瞬で瓦解した。
 ただそいつが、〝男だったモノが〟咆えただけで、寄せ集めの軍団は戦意を喪失、あるいは恐慌して手榴弾やら無反動砲やらを乱発したが、一切無駄に終わっ て直後に〝空中へ弾き飛ばされて〟いた。〝轢かれた〟のだ、いつの間にか動いていたらしいそいつに。
 ただ横を通り過ぎた衝撃だけで人間が紙切れのように吹き飛び、その筋力と僅かな体技だけで銃弾や爆弾がひしゃげて威力を失う様を、メードの私ははっきり と見届けてしまったのだ。おそらく直にあの膂力に晒されていたなら、人間の身ならず、鉄と岩盤でさえ為す術もなく粉々に砕け散ることだろう。
「………あー」
 圧倒的な瞬発力に攫われ、ドサドサと地面に叩き付けられて、悶絶したり呻いたりして戦闘不能になっていく戦闘員たちを横目に、私は自分が完全にやる気が萎えたのを悟った。
 だって、これは無理だ。以前のように瀕死でボロボロのどこかの隊長メードを相手にするのだってしんどかったのに、五体満足のこんなの、絶対に相手にした くない。力はあっても知性が殆ど無いGとだって雲泥の差なのだし、それでも未だ死体が出てなさそうなのは、随分と加減してくれているからに違いないのだから。
 チラリと見やれば、意志薄弱なケイトはもう涙目で膝がガクガク震えている。もう戦力外なのは一目瞭然。変態はチェーンソーを唸らせてイヒイヒ笑ってるけど、たぶん、あまり当てにならないだろうし。というか当てになんてしたくないし。
 次にババヤガーさんと私の目が合った。なんかウィンクしてくる。気持ち悪い。意味はなんとなく理解できたけど、怖気が走ったのであとで目を消毒しておかないと。
「………はぁ」
 黒旗では、楼蘭という国は存在自体がオカルトだという。でも、その真意はたぶん、楼蘭という極東の島国の文化を辺鄙と卑下したものでしかないのだろう。物珍 しく世界から見てマイノリティな異端をこれ見よがしに侮蔑するのは、よくあるプロパガンダの手口だ。どこぞの亜人を排斥する某宗教をオカルトとは言わないのがいい証拠。
 けど、それは間違いだ。この国は間違いなく変だ。あの人間離れした一団も変なら、目の前の奴もすべてオカルトまがい。
 メードにとって、人間離れした人間なんて敵ではない。それでは化け物にはなり得ない。怪物みたいな心を持つ人間はいても、それはやっぱり人間なのであ る。……だから私にとって化け物というのは、人間の心象を喩える言葉のひとつに過ぎない。本当はおぞましくてドロドロな人間という生き物を忠実に現した言葉だと。
 でも、目の前の〝コレ〟は例えではなく本当に――――化け物で、怪物だった。

 眼前にあるのは、白い体毛に覆われた一匹の怪物。身の丈10mを優に超える巨大なオオカミで。

 そうして私は、人間ではどうしようもないモノ。人間では太刀打ちできないものを、大陸から駆逐された宗教では――――そして私は知らなかったのだが、楼 蘭という島国においては未だそうしたモノを―――――〝神〟と呼んでいたことを、ふと思い出したのだった。

 




 以下、捕まっちゃったぜ。

――――…なんでこんなのにばっかフラグがry





 

―――――ロナより、状況報告。
 ローランに捕まった人たちは、メードも含めて、何故か畑仕事に従事させられています。海の家をやってた人の神社で。
 もっとこう、訊問とか拷問とか、メードなら廃棄処分とか統合司令部に告発とかされそうなものなんですけどね。そういうの一切無かったみたいで。
 どうも指揮官だったらしいあの常識無視した狼男が「その捻れた性根を叩き直すにゃ、農作業と神地暮らしが一番だ」と言って全員ぶち込んだらしい。かくして捕まった構成員述べ124名はあの白髪の男と神主の管理下で、畑を耕したり、収穫したり、掃除したり、談笑したり、漁に出かけたりして清く正しい生活を 送っているのである。……この国はやはりどこか変だと思う。あと神社って建物は意外と広いのにも驚いたというか。
 で、唯一捕まらなかった―――――というより、真っ先に逃げの一手を打った私とババヤガーさんだけでは、救出は非常にムズカシイです。戦力的にもあの ローランの変人組織に敵う気がしないし、そもそも捕まってる連中がもう逃げる気ゼロなんですよね。活き活きしてて。そりゃ確かに本部よりここは空気美味し いですし、後ろ指刺されずに働くのって楽しいんでしょうねきっと。
 個人的にいえば、掃除と土いじりなんて最悪の拷問だと思うんですけど。土ほじってミミズとか出てきたらどうするんですか。葉虫がいたらどうするんですか。気持ち悪い。魚を捌くなんて想像するだけで吐きそう。おぇ。
「―――――…ウヒ! 見て見てケイトちゃぁん」
「な……なんですか、コシチェイ先輩…」
「(キリッ)このナスを見てくれ、コイツをどう思う?」
「……………え……ぁ、……え、と……」
「いけない。いけないな。そんな反応されるとボクちん、ちょっと興奮が加速してしまいマしたよォーん!」
 あ、論外発見。あの根暗も相変わらずだけど、返事に困って俯いてるそいつに茄子を押し付けて喜んでるアイツはもっと相変わらずすぎ。早く何とかしないと ―――――…まぁ私がやらずとも(端からやる気ないですけど)、ほら、神主といつぞやの忍者が喝いれてった。骸骨死亡。そして再起動して「……しかし許せ ない。その袴とかゆー履き物は実に許せない。おみ足がぜんぜんまったーく見えないじゃないですかァー!」やっぱり懲りていないのは必然です。
………とまぁ、このように、状況が状況だし、標的ももう帰っちゃってたりするので、要するに作戦失敗したってことなんですけど。
 あーあとなんか、ババヤガーさんがですね。
「イッヒヒヒ! この国に残ってた方が、私の目的、若返りの秘法に近づけそうさねぇ! 若返りの秘湯とかありそうだねぇ!」
 というわけなんで、しばらく滞在するそうです。目下、あの狼男と不思議集団のオカルトを追う方向で。
 私はもう帰りたいんですけどね。独りで帰るのも、なんかそれも、面倒そうじゃないですか。色々と。メードの一人旅なんて、怖そうだし。
 なのでしばらく私も残ってババアの悪あがきに付き合います。
 そんなわけで。アデュー。

―――――――後日。この報告を受けた総統閣下は語るまでもなくお約束の声を張り上げ、どこぞの州知事のHPは半分になったのだとかかんとか…。


 黒旗ローラン奮闘記、完。



 参照:チューリップシーアトリアカルドラスニムバトキハドレス鳳凰院鶯妃ララスン・H・カーンホルン若松幸示カラヤ・U・ペーシュブロッケン・チターマン
     コニーアムジュード ニウワタツミ隆光グエンクロード翆蓮ミモジブラック・スリーセリヤ
     ロナコシチェイケイトババヤガーハゲ疑惑なんで知事選勝てたのか疑問
     ジンナイ/葛神白々朗/バーロット/バージュ /
     コシチェイは滅びぬ、何度でも蘇るさ、斉気道の力こそ人類の夢だからだ!/師匠は水着ぐらいならまだ大丈夫だった


 
 久方に神社帰ってきたらやたら外人いっぱいいて驚いたとか。

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