1940年1月。クロッセル連合王国所属の国家、ベーエルデー連邦が主導して発足した空戦メードによる独立組織「ルフトバッフェ」は、極めて有用な戦果を発揮し続けていた。これまでは戦闘機による損害必死の一撃離脱戦法か、ないしは対空迎撃と、それすら抜け、獲物を求め地上に肉薄した場合にしかメードによる対処が困難だったフライ級Gを、空中で事前処理しきることが出来るメードの戦力は、大変貴重視された――――。 中でも、後にレッド・バロンの異名を取る空戦メードの活躍は目覚ましく、今日も幾多のフライを打破し尽くした。 ―――――しかし。 ◆ グレートウォール戦線の高々度を、私とエレルの二人はペアを組み、飛び交うフライを撃ち倒していた。 空戦メードの翼は高々度でも問題なく動けるよう、私たちの体を保護してくれている。気圧や温度などの悪影響を殆どカットしてくれるというのだから、私たちに埋め込まれているベーエルデーのエターナル・コアというのは、最初から〝飛ぶために存在する奇跡〟としか言いようがない。 さりとて、それは眼前のフライたちも似たようなものなのだろう。巨大な蝿の姿をした彼らは気温の低い場所でも問題なく活動し、レシプロ機を遙かに超えた機動性を持って飛翔する。環境の変化にも強く、どんな悪天候でもお構いなしに獲物を求めて、人類圏へと侵攻してくるのだ。 ――――餌を求めるのは、動物として正しい。その点で言えば、私は彼らをそれほど嫌悪してはいない。 ただ、それで犠牲になるのがどこかの誰かであり、それで悲しむ人間がいるというのならば。 「人として、承諾はしてやれない」 私はそうして剣を振るう。鶯妃殿に仕込まれた剣技がすれ違い様にフライを切り裂き、炎上させた。私の翼から発せられた見た目炎のようなエネルギー体は、そのまま周辺のフライへと意思を持った斬撃のように襲いかかり、さながら数十メートルの鞭の如く唸りを上げて焼き裂いていく。 「相変わらず……見事な、ものよね。シーアの翼って」 エレルがそう賞賛の笑顔を浮かべながら、シーアの背後を守るように飛翔しつつ、手にしたM34重機関銃でフライを牽制する。フライの桁外れの反応速度の前に、距離が一定以上開いていては一丁の機関銃で撃墜するのは困難ではある。が、そこはエレルもそれなりの経験を積んだメードである。くるりと自身より大きな機関銃を振るってフライの回避も間に合わない射角と相対距離で何匹か撃ち落とし、時には、肉薄してきたフライを備えられた銃剣で突き、その首を切り落としたりもした。似たような機動力の怪物同士、接近してしまえばあとは手数と技量の差である。その点で言えば、単純な攻撃しかできないフライは、技の極みにある鶯妃殿よりもずっと御しやすい相手だった。 「いや、エレルの扇動が上手いから、やりやすいだけのことだよ」 そして彼女の露払いに合わせて、私の翼から噴き出た炎が剣を伝い、斬撃に合わせた螺旋となって動きの抑制されたフライを焼き払い、撃破する。まるで炎の蛇が虚空をのたうち、巨大な蝿たちを飲み込んでいるかのようだと、我ながら呆れてしまうが。 「本当は、私なんかよりもセーラさんの方が、いいんじゃないの? 色々と!」 エレルの銃剣が閃いて、フライの頭を真っ二つに唐竹割りにする。 「そんなことはないさ。私は、どんな女性の誘いも喜んで引き受けるよ」 左手の拳銃を引き抜き、放つ。弾丸に炎が乗って、肉薄していたフライの目に突き刺さって炸裂した。 「私でも?」 「勿論」 ワルツを踊るように飛翔し、殲滅する。そんなコンビネーションをかれこれ数十分と続けている。戦闘機では1匹につき3機で当たらなければ対処不能とされるフライ級を、たった二人で十を超える数を相手にできるのが空戦メードであった。が、今回はいささかフライの数が多い。 「やれやれ、マハーラ亜大陸には、そんなに食べるものがないのかね」 「冬支度でも……するつもり、なのかしらね」 「……エレル。顔色が悪いが…大丈夫か?」 巡航速度で飛翔しながら、背中を任せているエレルを振り返り、訊ねた。未だフライの数は周辺を飛び交っているものだけで、軽く5を超えているが、さすがに生物か。二人が自分たちを超える脅威であると認識して、出会い頭のような獰猛さを剥き出しにせず様子見を始めている。 このまま亜大陸の方へ引き返してくれるのなら、こちらも楽が出来るのだが――――何より、先ほどからエレルの様子が少し妙だ。顔色と、呼吸の不自然さが声色の節々に見え隠れしている。 「大丈夫よ……シーア。心配しないで」 けれどエレルはそう屈託無く微笑むのだから、信頼せざるを得ない。 そして間髪入れず5匹のフライが急激に方向転換し、こちらへと牙を剥いてきた。会話しているのを隙と判断したのか。 「シーア!」 エレルの気迫ある喝に、私は懸念を振り払って剣閃を振るう。ならば早々に終わらせるまでのことだ。 鳳凰院鶯妃直伝の一閃に、私の翼から噴き出た炎が追従するように波となってフライ3匹を飲み込む。しかし2匹は蝿の外見から想像も付かない急激な下降を行い、低空から跳ね上がるようにして肉薄してくる。 それを、エレルの重機関銃は既に承知していたかのように、1匹を蜂の巣にし、もう1匹の額を銃剣で切り裂いて息の根を止めた。 一瞬で決着は付いたが、彼らの雪崩はそこで止まない。取り巻きに徹していたフライも一斉に飛びかかってきたのだ。その数実に17匹。 「駆けるぞエレル!」 「ええ!」 ボッと翼に力を込め、吹き飛ぶように私たちは加速する。フライもそれに食らいついてくるが、単純な速度ならこちらが上。つかず離れずで飛翔し、エレルの重機関銃と私の斬撃で、追いついてきたものから仕留めていく。旋風吹き荒れる中で銃撃と爆音の轟きと、Gのレシプロ機めいた羽音とチキチキという金切り声が響いては消えていく。 そうして数は残り10となったところで、私はくるりと宙返りするように減速して、背後まで迫っていたフライの頭に剣を突き立て、その首を跳ね飛ばした。これで残り9匹。 「よし、エレル。そろそろ片を付け―――」 と、私は馴染みの彼女に声をかけようとして。 エレルも私の言葉に応えようと振り返ったとき。 彼女の翼が、事切れた人形のように、消え失せた。 「え…」 その一瞬を、私は理解できなかった。 エレルは、まるで消失してしまった翼に意識を飲み込まれてしまったかのように、表情を失って――――――頭上から迫っていたフライに、轢かれた。普段の彼女なら難なく避けられる一撃を、翼の消えたエレルは為す術もなく当てられてしまった。 バキリと鈍い音が、この吹き荒ぶ風の中にあって、鮮烈に私の耳に木霊する。グシャリと肉が削げ落ちた音が、吹き飛んでバラバラになったエレルの左腕が、もげた彼女の左肩が、噴水のように撒き散らされた赤い血が、私の目に焼き印のように押し当てられて。 「…エレ、ル…?」 理解は事後。理解は直後。しかし理解は愚鈍に、私の意識はすべてが遅延に反応して、ただ彼女の名前だけが口から漏れていた。 フライの飛翔速度は速い。レプシロ戦闘機の最高速度までには届かないが、それでも匹敵するほど速い。そして奴らは巨体で、鉄のように頑強で――――それに轢かれてしまった人間とは、どうなるのだろう。奴らは牙を突き立てたわけでも、爪を振るったわけでもなく、ただ体当たりのようにかすっていっただけだとしても、人間がその犠牲になってしまったのなら。 今のエレルのように、肉塊として粉砕されるのではないだろうか。 否。違う。エレルは人間ではない。エレルは人間ではなくメードであり、メードの強靭さは鋼鉄のそれに比肩して、且つ柔軟であるが故にそれを超越して――――――でもいまのエレルに、その奇跡は、微塵にも無かった。彼女の翼が、消え失せてしまったみたいに、何の慈悲もなく赤い血液を撒き散らしていた。 左腕を失い、左半身を血溜まりにしてエレルは天から落ちていく。さっきまで自分の背中を任せていた彼女が。 ――――理解は事後。すべてが事後。愚かしいほどに遅くて手遅れで。 「あ…」 その刹那の意識の混濁は、彼女に群がっていくフライたちの姿によって、焼き切れた。血を流し無力となった彼女は、さぞ彼らにとって格好の餌なのだろうけれど。 それは、エレルだ。 わたしの、大切な仲間なのだ。 それを、お前たちはいま――――――何をしようとしている? すべては一瞬の出来事だった。すべてが瞬きに流れて。 そして鎖が爆ぜるように、炸裂するように。 私の中で〝何か〟が炎上した。 「エレルに、触れるなァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 その頭の中で、心の中で爆ぜた何かは、私の炎上する翼に生じた。 翼と呼ぶにはあまりに禍々しい異形が、次瞬に生まれていたのだ。だが構いはしない。構っているヒマなどコンマ一秒もあり得ない! 私は、私の翼から噴き出た爆炎を即座に振るい放った。蠢く赤い翼は鎖を解かれた番犬のように一瞬で空を駆ける爆炎の波濤となり、渦巻く巨大な赤い槍と化し、フライの一群をただの一撃で焼滅する。まるで地獄の業火を喚びだしたかのような光景だった。 今までにあり得なかった現象、私が全く知り得なかった自分の力だった。けど、そんなこと今は知らない。どうでもいい。9匹を瞬きに焼き滅ぼした赤い槍を握る悪魔のような奔流を背中に従えたままに、私は直ぐに風を置いて吹き飛ぶ。その速度だって知らない世界だった。 だけど、それでも遅い。まったく遅い。遅すぎた。 自分の赤い翼に彩られて、まるで暁の空の中、私はエレルの体を掴み、抱き寄せた。 「………あ、あ」 炎のような異形の翼を従えた私に対して。 エレルの体は、あまりにも冷たかった。 … エレルはベッドに寝かされていた。包帯を巻かれた体に、左肩から先はない。いや……そもそも左半身のすべてが破壊され尽くしていた。くっついているだけで、原形を留めているだけで奇跡的なことだったのだ。 この天幕には私と、エレルしかいない。陣営に帰った私を出迎え、刹那に青ざめた鶯妃殿はいま天幕の外で、セーラ達の帰りを待っているのだ。――――考えてみれば、鶯妃殿もまだ二十歳に満たない女性である。若いのだ、彼女もまた。行方不明になってしまったハプアはきっと生きていると私たちは信じているが、目の前のエレルはどうしたって否定のしようがない現実である。おそらく死別という言葉をそれほど経験したことがないだろう、あのときの鶯妃殿の悲痛な表情が、鮮明に脳裏にこびり付いて仕方がなかった。 なら、これら帰ってくるセーラやアリシアやミシャやスタトナに、ベーエルデーで新たに誕生したメード達と一緒に帰りを待っているカラヤ老に――――いつか帰ってくるだろうハプアに、わたしはどんな言葉を告げればいい。 「………すまない」 横たわる彼女の傍らで、結局私は、そんなことしか言えなかった。 何故なら彼女の翼が突然消失してしまったのは、すべて私に責があることだったから。 理解はあまりに遅かった。もっと早く気付くべきだった。もっと早く手を打つべきだったのに。 「……謝らないで。私が、ただ……シーアの、翼に、追いつけなかった……それだけ、なんだから…」 エレルが擦れた声で微笑む。それも歪でしかない。いつもの彼女の笑顔に比べればあまりに不出来で、あまりに弱かった。 理解は遅すぎた。 彼女にとって、私の飛翔速度は、私の戦闘速度はあまりに酷なものだったのだと。 加減はしているつもりだった。彼女に合わせて、彼女とワルツを踊れるように翼を舞わせていたつもりだった。 けれど、実際に合わせていたのは、エレルだった。私は強引にリードしていただけに過ぎなかった。 はたして、エレルの翼は限界を迎えてしまったのだ。 「私が、悪いのよ。ちゃんと言わなかった…私が……シーアに追いつけなかった、私が…」 メードの異能は、コアの恩恵に依存している。けれど異能の酷使がそのメード当人の体力を著しく奪うことなのだということを、私たちも知っていたはずだった。 けれど私たちは飛ぶことに何の苦痛を持たなかった。何の疑問もなかった。どこまでも飛んでいける気でいたのだ。 なのに―――――それなのに、エレルは翼を失ってしまった。コアが悲鳴を上げて、メードをメードたらしめるものすべてを、一時的に喪失してしまったのだ。 だからフライの突進がかすっただけで、死に体となった。堅固なメードの体を、翼と一緒に失ってしまっていたから。 即死しなかったのが不思議なくらいに、エレルは天から墜ちてしまった。どうしようもないくらい、即死しなかっただけの〝死〟の烙印を刻まれてしまったのだ。 そして、そうまで無理をさせたのは他でもない、私なのだ。このシーアなのだ。 「すまない…エレル、すまない………本当に、すまない…」 済むわけがない。謝って済むことではない。どうよしもなく取り返しが付かないことをしてしまったのだぞ。けれど、他に言葉が全く見つからない。独学で身につけた語学などまるで役に立たなかった。私が独り身につけてきた知識は、エレルに何もしてやれない。 愚かだ。愚かしいにも程がある。本当に、どうしようもない。ただ謝ることしかできないなんて。 「……シーア。私ね、貴方の翼……正直、妬んでたのよ」 しかし彼女は、エレルはくすっと笑った。かすかに、僅かに口元が動く程度の笑顔でしかなかったけれど。 もうそれだけしか、彼女の命は残っていなかったのに、彼女は微笑みを浮かべたまま、私に続けた。 「シーアはちっこいくせに、とても強くて、とても雄々しくて……綺麗で。ほんと、妬けちゃうくらい……だから、近くで、見ていたかった。出来ることなら、貴方の隣で……ずっと飛んでいたかった……でも、無理しすぎちゃったのねぇ…。近づきすぎて……イカロスみたいに、落ちちゃった……」 エレルの右目が私の目を覗き込んでくる。焦点が定まっていない虚ろな目で、おそらくもう何も見えていないだろう目で、それでも私を憂う瞳で―――――気遣い上手だった、エレルのもので私を見据えて、彼女は笑った。 「シーア。いつか、ルフトバッフェが……大きくなって……いっぱい仲間が増えたら……きっと、貴方の翼にもついてこれる子たちがいると思う。……その子たちと飛べたら、あなたは…もっと……」 声が小さくなっていく。擦れて空気の中に埋もれていく。 「……そうね……シーアらしく、赤の部隊…とか、作ったら……面白い…かも、ね…」 瞳から色が消えていく。無機質へと飲み込まれていく。 削れて窶れた彼女の命が、消えていくのを、私は何も出来ずに見守ることしかできなかった。ただ頷くことだけが、笑い返すことだけが私に出来る精一杯だった。見えていようといまいと、カラヤ老に教えられたような、エレルのような屈託のない笑顔を浮かべることだけが今の私の義務で、願いだった。 はたして気付いてくれたのか。彼女の唇が、まるで安堵したみたいに弛んだ。 「―――――…わたしね、楽しかったわ。みんなと…空を、飛べて…」 そうして、彼女は瞼を閉じた。 もう二度と、その眠りは覚めることはないのだと理解したとき、私は自然と膝を突いていた。 「エレル……」 その安らかな笑顔の前に、私の笑顔なんてどんなに歪だったのだろう。どんなにあからさまな作り笑いだったのだろう。恨み言のひとつ無く逝ってしまった彼女の優しさに対して、この頬を伝う涙はどんなに脆くて見苦しいものだったのだろう。どれほど弱くて空虚な誇りだったのだろう。 もう永遠に、彼女の目が開くことはない。 彼女の翼から流れ伝わる波長を感じることは、もう二度と出来ない。 その声を聞くことはできない。笑顔を向けてくれることはない。 後悔せずにはいられない。自責せずにはいられないのは当然だ。彼女を殺したのは私だった。どうしようもなく私だったのだ。 「……ああ」 それでも彼女の笑顔は、けして嘘ではないと感じられたから。 エレルは最期まで、私に笑いかけていたのなら。 「………私も、楽しかった……楽しかったよ、エレル…」 だから許してくれ。ここで泣くことを許して欲しいと―――――私は生まれて初めて、声を出して泣くことを知った。 ――――――そうして私は、自分の翼の中にいた高みを見た代わりに。 背中を任せるにたる家族を、大切な仲間を一人、失ったのだ。 ◆ ―――――1940年1月を境に、空戦メード〝シーア〟のスコアは飛躍的に跳ね上がり続けていく。 ただ、ルフトバッフェにとって、その月はあまりに被害が大きく、その正式な稼働には更に月日を費やすこととなる。 そして1945年現在。ベーエルデー・メードが飛翔能力の酷使によって消耗死してしまう可能性について、ベーエルデー連邦政府からの報告は一切出ていない。 … 「エレルの翼が消失した件については、伏せておくべきだと思う」 私はそうカラヤ老と鶯妃殿、そしてベーエルデー連邦最高議会委員長ブロッケン・チターマンという居並ぶルフトバッフェの重鎮に進言した。 「それは何故だ、シーア」 「我々の優位性が疑われる。事実、酷使しなければ飛翔そのものは何の問題はない。今回のケースは、分不相応な連携が招いた事故だと思う」 「………事故、か」 「はい」 カラヤ老の不愉快そうな呟きに、私はしっかりと肯定した。 「そして、エレルはフライの不意の攻撃によって戦死した。そういうことにしておいて欲しい。独立軍となるからには、他の異能のメードたちを圧倒する有用性がなければならない。Gと戦って死んだのならまだしも、自滅したとあっては話にならないだろう」 「……だから、エレルの直接の死因は伏せると」 「はい。それに、エレルには明らかな前兆がありました。自己の管理はもちろんのこと、互いが互いを補うことを徹底させれば、こうした問題は解決できるでしょうし、例え翼が一時的に喪失してしまったとしても、他の者が即座に対応できる状況であれば回復は可能なはずだ」 カラヤ老はふむと頷き、私をその爛々とした目が見据える。 「ついでに……今は無理だが、きちんとした休養を与えてれば、そうした問題もなくなりそうじゃな?」 私は彼女の言葉に頷き、続けた。 「それと、個々の実力を補い、互いの長所を伸ばす編成が重要かと存じます」 「……それは私と、ララスン殿の仕事かな…」 鶯妃殿が静かに口を開く そしてブロッケン議長が肩をすくめて立ち上がった。 「では、エレルの件は私の胸で止めておきましょう。……彼女は立派に戦って散った、そういうことに」 「あまり脚色はするなよ」 カラヤの言葉に、虎か豹を思わせる風貌の亜人の議長はクッと口元を歪ませる。笑顔ではなく、悲哀に。 「……んもぅ。私が人の死を堂々と道具にするのが嫌いだと、知ってるくせに。それにプロパガンダにするならこの場合、戦死よりもシーア君の戦果の方でしょう」 「ワシはそれも好かんがな。風評は勝手に立つから風評じゃが…―――――シーア」 カラヤが私に視線を戻した。 「……すまんな。辛いことを言わせた」 そして、優しい笑みを返してくれたのだ。 だから――――ああ、私は本当にまだまだなのだと思い知らされる。ただ死神に見いだされただけの、なんと小さな雛鳥なのだと。 あの日常は平気だったのに。まったく悲しくなんてなかったのに。こんな装置、当の昔に壊れていたはずなのに。私はとっくの昔に壊れてしまっていたはずなのに、なんて、不様で幼いのだろう。どれだけ独りで学を重ねようと、人の闇の一部に触れていようと、所詮はたかが十数年を数えただけの、張り子の器だったということか。 だって、たったそれだけのことで、理解してもらえただけで―――――私の涙は、いとも簡単に流れ落ちてしまったのだから。 ―――――1940年1月を境に、空戦メード〝シーア〟のスコアは飛躍し、やがてレッド・バロンの異名を取るに到る。 そして1945年現在。ベーエルデー・メードが能力の酷使によって消耗死してしまう可能性について、ベーエルデー連邦政府からの報告は一切出ていない。 ただし、彼らが自らのメードたちに対して、そうさせないために尽力していることもまた事実である。 |
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