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『結局、この個体にかの能力は発現しなかったのかい?』 『ええ――――第三世代の〝異能〟はまったくありません。完全に、失敗作です』 うるさい黙れ。 『その上、既存の第二世代どころか、第一世代の旧式にすら身体能力で劣ります』 『なんだい、いいところがひとつもないじゃないか』 『はい。全くの失敗です』 黙れ黙れ黙れ。 『で、どうしましょうか?』 『どうするもこうするも。何も能力がないのなら実験のしようがないじゃないか』 黙れ黙れうるさい黙れ黙れ黙れ黙れ! 『ああ、そうだ。あの異国からきた…元・第二皇女にでもあげればいいんじゃないか。ほら、なんだ、そっちの顔つきだし、これ』 黙れ黙れ喋るなうるさい黙れ!! 『そうだ、そうしようじゃないか。こんな〝役立たず〟は、余所者に厄介払いしてしまえばいい』 うるさいうるさいうるさい!! 分かってる!うるさい!私は無能!私は役立たず!私は失敗作!! 違う!私は役立たずじゃない!私は無能じゃない!私は失敗じゃない! 私は私はワタシは!! 〝生まれてこなければよかった〟なんてことあるわけがない――――!!!! ◆ そうして私は剣の腕を磨いた。劣等の体も無視して技を研磨し続けた。 異能として生まれるはずだった無能、最新にして無力なんて言われないために必死で努力し続けた。 その努力を他人にこれ見よがしにしようとは思わなかった。そんな弱みは己を殺したくなるほど台無しにするし、そんな可哀相な自分を自演するなんて想像しただけで大っ嫌いで、何度も何度も噛み殺し続けてきた。 羊水層の中で聴いたあの技師たちの蔑みの声を糧にして、今の私はどうにか〝自殺〟したくなるほど自分を殺したいとは思わなくなった。 主人も出来た。まだ幼いクオン様との児戯は、私のかけがえのない憩いのひとときだ。 らら姉のお小言も気にならないほど、私はクオン様との時間を愛しく思っている。「うるる」とクオン様が辿々しく私の名前を呼んでくれるだけで嬉しい。そう思える自分は好きだ。 ――――けど、退屈な時間は嫌いだ。独りの時間はもっと嫌い。そこには、ワタシという私が嫌いな奴しかいないからだ。 クオン様がどうしても玩具を強請ってきかず、らら姉に叱られていたのが可哀相で、こっそり内緒で買いに出たのは自分自身なのだけれど。それでも、私は独りの時間は嫌いだった。 そんな折りに――――ワタシは〝ソイツ〟を見つけてしまったのだ。 『J国の決戦兵器……〝黒百合〟っだっけ。モグリオのあのクソジジイ……データ偽って送ってきたんじゃないだろうな』 ソイツが視界に入った瞬間、アイツらの声が脳裏に反芻した。 間違いない間違いない。あの黒髪の女が、私よりも小柄なあの異国容姿の少女が――――ワタシよりも真っ赤な目の〝異形〟が、ワタシのオリジナル〝黒百合〟に違いない――――!!! あとのことはよく覚えていない。ただこれは、絶好の機会だと思っただけ。 ワタシは彼女に声を掛けて。 人気のないとあるビルの屋上に連れ出して。 ―――――あとは…。 … 私の斬撃に合わせて、黒百合の掌が翻る。もう何度も見た異国の体技だ。相手の力を利用して威殺す武術は確かに厄介ではある。 けれど、 「無駄だって言っている!!」 私の薙刀は実体のない〝光剣〟であるし、長柄武器のリーチはそんな体術で容易く制せるものではない。それに元より私が必死の思いで積み上げてきた剣技が、こんな〝普通の技〟に負けるハズがない!! 「……ッう!!」 黒百合の技も意に返すことなく、私の斬撃が彼女の肩を切りつけた。そんなことを何度も何度も繰り返しているから、黒百合の体はもうボロ雑巾のようだった。 勝負の差は歴然としていた。劣等の烙印を押された私よりも黒百合は遥かに弱かった。身体能力で言えば普通の人間より少し高い程度だろうし、あの程度の動きであれば、おそらく人間でも熟練の者なら簡単に組み伏せることが出来る。その上呼吸まで乱れていて、持久力すらただの人間並みときていた。 それほど彼女は、J国の決戦兵器は、私のオリジナルは弱小の輩だった。 「………なぜじゃ」 普通の人間なら失血死していてもおかしくないくらい斬りつけ続けた。 理由も告げず、理不尽に襲いかかって彼女を蹂躙している。 それなのに。 「なぜ、〝力〟を使わん!!」 なんで黒百合は、未だに〝異能〟を発揮しようとしない―――!! ![]() 「お前には力があろう?! 〝異能〟の力が! 兵器としての力が! なんで使わない!」 彼女が私を見据える。その目が、どこか悲哀の色を浮かべていて、ワタシはたまらず絶叫した。 「どうしてじゃ! なんで〝普通〟のことしかしない! 使えばいいだろう、力を! ワタシを〝不良品〟と、デッドコピーと言わしめる力がお前にはあるハズだろうがッ!!!」 使え!使え!そうでないと意味がない! その〝力〟をワタシの〝努力〟がねじ伏せなければ何の意味もないのに!!! 黒百合はますます目に悲しみを讃える。それがとてもとても憎々しくて。 「――――私には、何の力も、ありません…」 その言葉が、信じられなかった。 「巫山戯るなぁああッッッ!!!!」 渾身の力で斬りかかる。怒りに頭が真っ白になって、目から血が滴り落ちそうなくらい熱く燃えさかった。そんなことを、私の心臓をナイフでズダズタに抉るようなことを、眼前の〝ソレ〟は口にした!! 動かない。ソレは本当に動けずにいる。 息を切らし、体をズタズタに切られて、もうどうしようもなく私に斬り殺されるしかないソレ。 本当に、何も、できない―――――――無力な、黒百合を。 私は――――斬り殺す寸前で、どうにか止まることが出来た。あと1ミリもない間髪で、私は光剣の刃を納めたのだ。本当に、あと刹那の差で私が判断できなければ、黒百合の首は地面に転がっていただろう。 沸騰した理性に氷水を浴びせるるかのように無力すぎる彼女の様に、私の怒りは完全に行き場を失ってしまったのだ。 「……本当に、何も…できないのか?」 私は訊ねた。どこか懇願するみたいに、嘘であって欲しいと頼むような口調だったと客観してしまうくらい、弱い呟きだった。 黒百合は私を見据えて言う。 「………少なくとも……私は、私自身のための力を持ちません。私の力は、どうしようもなく、手遅れなのです…」 「手遅れ?……それは、失敗、なのか?」 黒百合は苦笑する。本当に、本当にどうしようもなく慟哭している。そんな悔しみを浮かべて言った。 「―――――貴方はメイドですね。なら、貴方は欲しいと思いますか。自分の大切な人が手遅れになってしまわなければ、どうしようもない力なんて。そんな、後悔しかない力なんて」 意味は分からなかった。 けど、そんな力、いらないとだけは分かった。 クオン様の命が失われることを考えただけで気が狂いそうになるのに、そのクオン様を守ることも出来ない力なんて、何の意味もない。本当にそれこそ、最大の失敗、最悪の過ちではないか。 「……私は、貴方の方が羨ましいですよ。主を守ることのできる確かな〝力〟を持つ、貴方の方が」 「〝るる〟が……羨ましい?」 この私が? 不良品の私が? 失敗作の私が? 自分を嫌いな私が、オリジナルの黒百合は羨ましい? 「そうですよ……こんな〝手遅れ〟の私よりも、貴方の方がよっぽど無敵です。貴方の技はとても真っ直ぐで、がむしゃらで……だからこそ未来へと輝いている。それは、とても素晴らしい〝剣〟です」 「………」 ――――ああ、なんか拙い。頬が勝手に熱くなってる。 「へ、変なことを言う奴だ! 恥ずかしくはないのか、そんな!」 「恥ではありません。それは、尊ぶべこと。そして、誇るべき事ですよ。るるさん」 「う……ぅ…」 何も言えなくなってしまった。 目の前のズタボロは、私が自分勝手に散々斬りつけた黒百合は、それなのに本当に優しく笑ってくれていた。そんなの、何も言い返す事なんて、できないじゃないか。 ………いや、違う。ひとつだけ、うるるが言うべき事があった。 「――――――その、ごめんなさい。黒百合…」 彼女は満足げに微笑んでくれた。 ―――――黒百合と別れ、私はクオン様の玩具をこっそり袖に隠して帰宅する。 その帰路は、当然うるる独りだったけど。 今の時間は不思議と、嫌いじゃなかった自分がいた。 そんな現金な自分を、それでも私は、ほんの少し好きになれた気がしたのだ。 |
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